場末の陽炎

本、映画、食事、雑記などをだらだら記すブログ

昨日はナチスドイツ――ナチス党政権下の映画『シンドラーのリスト』を紹介したので同じ圧政下のソビエト社会主義共和国――ソ連を舞台にした連続殺人事件の書籍でも紹介しますね。

 

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『チャイルド44』

44人もの少年を殺害した連続少年殺害事件を追う国家保安庁職員のレオ・ステパノヴィッチ・デミドフを主人公とした小説です。実はこの小説、52人もの女子供を殺害したアンドレイ・ロマノヴィチ・チカチーロというウクライナ生まれの連続猟奇殺人者をモデルにしているそうです。

 

実話も小説もとんでもない数の殺人を起こされているわけですが、これにはどちらも同じ理由があって、「連続殺人事件は資本主義の退廃的な文化の悪弊」であり、連続殺人のような異常な犯罪はソビエト連邦には――ひいては共産圏には存在しないという公式の見解(建前かもしれませんが)があったようです。それで民警――ソ連内務省管轄の文民警察組織は連続殺人の可能性を頭から否定して、組織だった捜査をせず、これだけの犠牲者を生んでしまったというわけですね。

 

実在の人物のアンドレイ・チカチーロは置いといて小説の犯人の根源的な動機はホロドモール大飢饉の出来事です。

 

ことの起こりのホロドモール大飢饉は、1932年から1933年にかけてウクライナ人が住んでいた各地域で起きた人工的な大飢饉のことをいいます。「人工的な大飢饉」というのはソビエト連邦は政策として農業の集団化(コルホーズ)を推し進めていたわけですが、当然農民層による反発を生みました。まあ、コルホーズというのは、結局は強制移住による家畜や農地の接収なわけですから、そりゃ反発しますね。農民の財産は家畜や農地ですから。

それでまあ弾圧やら農民の逃亡やら農業の集団化とともに実施された穀物の徴発やら、農民を工業労働者にしたり(しかも工業賃金が12%近く減少している)で、農村の荒廃を招いたわけです。被害が特に酷かったのがウクライナで400万人から1000万人以上が死亡したとされています。しかもスターリンは外貨獲得のために飢餓輸出まで行ってます。大飢饉前からウクライナから小麦の輸出をやっていたわけですが、大飢饉中も変わらず小麦をウクライナから輸出のために接収を続けました。

 

ホロドモール大飢饉を長々と書きましたが、要は『チャイルド44』はスターリン支配下の歪んだ政治情勢が下地にあるストーリーです。連続殺人事件だけでなく密告や粛清の嵐が主人公の周り、いやソ連全体を覆ってるという救いようのない話です。主人公ですら密告や粛清を行ってますからね。

 

これ以上はネタバレになるので書きませんが、前回の『シンドラーのリスト』と『チャイルド44』を見て思うのはナチスソ連は思想は違うはずなのにやってることは、弾圧粛清密告と、お前ら戦争し合ってる犬猿の仲なのに何同じことやってんだ、とつっこみたくなりました。まあ、ナチスドイツとソビエト連邦の書籍は、小説であろうとなかろうとどこかデジャヴを感じますね。

 

ここらで終わります。次はもうちょい微笑ましい内容にします。二日続けてナチスドイツにソ連ですからね。『シンドラーのリスト』と一緒に借りた映画がありますので次はそれにしようかな。

 

それでは最後まで見てくれた方、チラ見してくれた方、ありがとうございました。

最後に『チャイルド44』は映画もありますので小説は読む気しない人はそちらをどうぞ。私は見てないのでおもしろいかどうかは分かりませんが。

それでは。